世の中にはびこるWeb広告。信頼できる組織が出稿しているものもあれば、どこの誰が出しているのか分からない、真偽不明な広告があるのも事実です。

皆さんは、こんな広告を目にしたことはありませんか?
無料の適職診断を利用したら転職に成功し、お金に余裕ができたという広告がSNSなどで散見されます。
たった数分で終わる適職診断に答えたら転職に成功するのであれば全人類がとっくにやっていそうですが、一体どんな診断なのか気になるところです。
果たしてこの広告は本当なのでしょうか。怪しい広告調査隊、参ります。
広告は何かしらの利益が出るから出している
怪しい広告について語る際に欠かせない視点が、広告は何かしらの利益が出るから出しているというものです。
お菓子の広告を出すのは、そのお菓子を買ってもらいたいからです。政府が闇バイトへの注意喚起をするCMを流すのは、闇バイトによる犯罪行為を減らせば政府にもメリットがあるからでしょう。
このように、広告は広告主が何らかの利益を得るために出すものです。広告主に直接的な利益がないのに広告を出すのは、オタクが出稿する応援広告くらいだと言えます。
それを踏まえると、今回取り上げている注文住宅の広告も、広告主が何かしらの利益を得るために出しているものだと考えるのが自然です。
一体どうやって利益を得ているのかが分かれば、この広告の正体が見えてきます。
転職に関するサービスは儲かる
身も蓋もない言い方をすれば、転職に関するサービスはとても儲かります。現代人にとって仕事は自分の生き方と切っても切れない関係であり、雇う側からしても労働者の確保は急務だからです。
例として、転職エージェントについて考えてみましょう。仕事を探している人からすれば、無料でいろいろな転職サポートを受けられるサービスです。
なぜ転職エージェントが事業として成り立っているのかと言えば、それは働く人を探している企業が膨大なお金を払っているからに他なりません。
大手転職エージェントのdodaによれば、企業がエージェントに支払う手数料は、転職した人の年収の30~35%が相場とのこと。(出典:転職エージェントの費用相場はいくら?料金の仕組みを解説!| doda)
つまり、年収600万円の人が転職した場合、企業からエージェントに200万円前後のお金が支払われることになるのです。たった1人転職させただけで200万円ですから、かなり儲かる仕事ですよね。
となると、エージェント側はもっと儲けるために転職希望者を集めはじめます。そんなときに使われるのが、このシリーズではおなじみのアフィリエイトです。

エージェントからすれば、1人転職させるだけで数百万円のお金が入ってくるので、お客さんを連れてきてくれたアフィリエイターには大盤振る舞いで多めにお金を払います。
すると、「転職エージェントってお金いっぱいくれるらしいぞ」と聞きつけたアフィリエイターたちが集まってきます。こうして世の中には転職エージェントの広告があふれかえるのです。
無料の適職診断は転職エージェントではない
ここまで転職エージェントがいかに儲かるサービスかについて説明してきましたが、実は今回の広告は転職エージェントではありません。
むしろ、「転職エージェントはお金目的で本当に利用者のことを考えていない」と批判する広告も散見されます。では、その正体は一体何なのでしょうか。
実際に適職診断を受けてみると、結果はその場では出ず、LINEに誘導されます。友達追加してみると、自分のタイプと長所・短所、向いている職業が表示されました。
この転職診断だけでは、転職を成功させるのはまず無理でしょう。LINEのトーク画面では、続けて「転職を成功させるために無料のカウンセリングを受けませんか」と紹介されます。
これが適職診断の狙いです。適職診断はあくまでも撒き餌にすぎず、無料カウンセリングから自分たちのビジネスに引き込むことを目的としています。
LINEで送られてきたメッセージを見てみると、やれ「トレーニング」やら「カリキュラム」やら「受講」やら、まるで学校かのような単語が散りばめられています。
それもそのはず。この広告は転職先を紹介するビジネスではなく、転職したい人を教育するビジネスなのです。
転職したい人からお金をもらうビジネス
今回の広告のような転職したい人を教育するビジネスは、キャリアコーチングと呼ばれます。キャリアアップなどの目標を明確にし、自分の力で達成できるようにサポートしてもらえるサービスです。
時代と共に働き方が変わりつつある現代、仕事に対する漠然とした不安を抱いている人は少なくありません。そのような人たちの中で、理想の働き方を見つけて実現させるための手段として人気を集めています。
実際に、進研ゼミでおなじみのベネッセもキャリアコーチングのサービスを開始するなど、大手企業でもサービスを提供する例が増えてきました。
先に紹介した転職エージェントは、企業からお金をもらって運営されているビジネスです。それに対して、キャリアコーチングは転職したい人からお金をもらうことで成り立っています。

ここで、転職エージェントの仕組みを思い出してみましょう。転職エージェント経由で転職すると、エージェントには数百万円のお金が企業から支払われます。だからこそ、転職したい人はサービスを無料で利用できます。
では、キャリアコーチングはどうでしょうか。お金を出してくれる企業がいないので、受けるサービスに対して自分でお金を払わなければなりません。世の中には無料で受けられる転職支援がたくさんあるのに、です。
気になるその料金は、およそ10万円から70万円。企業によっても異なりますが、高額なところでは100万円を超えてくるケースもあります。
そのコーチは本当に信頼できるか
高いお金を払っても、その価値があるなら問題ありません。実際、この広告から無料カウンセリングに参加すると「年収が50万円上がればすぐに回収できる」と説得されるそうです。
しかし、気になるのがこの広告のホームページです。なんと、どこを見ても料金の記載がありません。退職給付金もそうだったのですが、この手のサービスはとにかく料金を隠したがります。
今回も、ページの最下部に小さくリンクがある「特定商取引法に基づく表記」から金額を確認できました。なんとお値段、最も安いもので49万5,000円。最も高いものだと148万5,000円です。
追加のプログラムを受講するとさらに33万円がかかるというのですから驚きです。そして何より、100万円以上取っておいてホームページに料金を記載しない強気の姿勢は一周回って感心します。
冷静に考えてほしいのですが、100万円かかるサービスを提供しているのに料金を頑なに隠したがる企業は、信頼するに足るでしょうか。40万円かかることを明記してくれているベネッセの方がまだ信頼できます。
その広告はコーチ本人が作ったものではないかもしれない
もう1つ思い出してほしいのが、最初に説明した「転職に関するサービスはとても儲かる」という話です。
転職エージェント同様、キャリアコーチングもアフィリエイトで儲けやすいジャンルと言われています。報酬が高額なうえに、「今の仕事を何とかしたい」と考えている人が多く、無料カウンセリングに繋ぎやすいからです。
その結果、お金欲しさに集まってきたアフィリエイターたちが何とか人を集めようと広告を作り、我々の元に怪しい広告として流れてきたわけです。
アフィリエイトそのものが悪いわけではありませんが、サービスを提供する人と広告を作る人が別であること、見た人を誘導するために極端な表現を使うことがある点には注意しましょう。
ちなみに、きちんとした企業はアフィリエイト広告にも厳格な基準を定めているので、怪しい広告が出てきた時点で「サービスを提供している企業もちょっと怪しいかも」と思ってもいいかもしれません。
信頼できるサービスを利用しよう
今回のキャリアコーチングに限らず、世の中には転職をサポートしてくれるサービスが山ほどあるので、信頼できるサービスかどうかを見極めるのが重要です。
無料とはいえ、転職エージェントの言うことも鵜呑みにしていいわけではありません。あなたが転職すればお金がもらえる仕組みなので、あなたの都合なんか考えずに適当な企業を押し付けてくる可能性だってあります。
大事なのは、自分が信頼できると思ったサービスを使って、主体性を持って転職活動を進めること。今回の広告に限らず、信頼できるサービスとともに転職を成功させたいものですね。
今回の調査報告:自分の人生は自分で決める
今回取り上げた怪しい広告はキャリアコーチングに誘導するもので、それ自体に違法性はありません。
しかし、高額な料金がかかるのにホームページで料金を明記していないなど、サービスとして信頼に足るかどうかが怪しいものでした。
働き方は生き方の一部です。転職に関するサービスを利用する際には、誰かの言いなりになるのではなく、自分の頭でしっかりと考えて決断しましょう。


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