世の中にはびこるWeb広告。信頼できる組織が出稿しているものもあれば、どこの誰が出しているのか分からない、真偽不明な広告があるのも事実です。

皆さんは、こんな広告を目にしたことはありませんか?
住宅といえば、一般的には何十年というローンを組んで購入する高額なものです。購入者の希望をもとにデザインする注文住宅となれば、なおさら高額になってしまいます。
そんな注文住宅を、年収300万円台・貯金ゼロ・1,000万円台で建てられて支払いは月6万円台という広告がSNSなどで散見されます。
果たしてこの広告は本当なのでしょうか。怪しい広告調査隊、参ります。
広告は何かしらの利益が出るから出している
怪しい広告について語る際に欠かせない視点が、広告は何かしらの利益が出るから出しているというものです。
お菓子の広告を出すのは、そのお菓子を買ってもらいたいからです。政府が闇バイトへの注意喚起をするCMを流すのは、闇バイトによる犯罪行為を減らせば政府にもメリットがあるからでしょう。
このように、広告は広告主が何らかの利益を得るために出すものです。広告主に直接的な利益がないのに広告を出すのは、オタクが出稿する応援広告くらいだと言えます。
それを踏まえると、今回取り上げている注文住宅の広告も、広告主が何かしらの利益を得るために出しているものだと考えるのが自然です。
一体どうやって利益を得ているのかが分かれば、この広告の正体が見えてきます。
真の目的は建築会社の紹介
結論から先にお伝えすると、この怪しい広告の正体は建築会社を紹介するサービスに誘導することです。
同様の広告はもしかしたら別のサービスでも出ているかもしれませんが、今回は私が見つけたこのサービスについて紹介します。
サービス自体は怪しくない
この「建築会社を紹介するサービス」をインターネットで調べてみると、それ自体には特に違法性がある点は見受けられません。
注文住宅を検討している人に向けて、資金計画や間取りプラン、土地探しのアドバイスなどをしてくれているサービスのようです。
紹介してもらえる建築会社も大手が多く、ホームページを確認する限りこのサービス自体が怪しいとは言えません。
念のため口コミも確認しましたが、それほど酷評されているわけではありませんでした。
しかし、注意したいのはこのサービスを提供している人が家を建ててくれるわけではないことです。
家を建てるのはあくまでも紹介された建築会社であり、広告を見て「お金がなくても家が建てられると聞きました!」と問い合わせても、断られる可能性は大いにあります。
というより、そもそもその広告自体別の人が作ったものかもしれません。
広告を作っているのは誰?
広告を作るのはそのサービスを提供している人というのが一般的な考えですが、実はそうでないケースもあります。それがいわゆるアフィリエイトです。

アフィリエイターが紹介したサービスや商品が購入されると報酬が支払われるというもので、実際に「[サービス名] アフィリエイト」で検索すると、このサービスを紹介して報酬を受け取れる仕組みがあることを確認できました。
そのため、今回取り上げている広告は「家を建てる会社を紹介するサービスを紹介する人が作った広告」という入れ子式になっている可能性があります。
家を建てる専門家ではない人が作ったかもしれない広告。広告に書かれていることが真実なのか、怪しくなってきました。
広告の実現可能性を検討する
では、実際に広告通りの条件で注文住宅を建てることはできるのでしょうか。
ちなみに、令和4年度住宅市場動向調査という国土交通省の調査によると、注文住宅の建築費用の全国平均価格は3,866万円です。この時点で暗雲が立ち込めていますが、順番に検討していきましょう。
貯金ゼロでも家は建つけど苦しい
まずは、広告の「貯金ゼロ」という文言から検証します。
家を買うときには、住宅の購入費とは別にさまざまな費用がかかります。不動産取得税や登録免許税など、一戸建てを買うときにかかる諸費用は購入価格の6~9%が目安です。
さらに、家を買うときには契約の際に手付金を支払うのが一般的で、購入価格の5~10%程度を現金で払うことになります。
これに加えて、購入価格の一部を現金で支払う頭金は購入価格の1~2割が一般的です。頭金である程度お金を払っておけば、住宅ローンの返済が楽になります。

貯金がないということはこれらのお金を払えないということなので、家を建てるのは難しくなりますが、どこかから借りてくれば何とか家は建ちます。
住宅ローンには、物件価格以上のお金を借りる「オーバーローン」という融資方法が存在していて、金融機関によっては引っ越し費用なども借りられます。
しかし、お金を借りすぎると返済が大変になるうえに住宅ローンの審査も厳しくなるので、貯金ゼロで家を建てるのはおすすめできません。
貯金ゼロでも家は建つがかなり大変なので、広告でアピールするのは無理があるのでは。
年収300万円台でも家は建つけど選択肢が減る
年収300万円台で注文住宅を建てるなんて不可能だと思う人もいるかもしれませんが、実は年収300万円台で家を建てている人は結構います。
住宅金融支援機構がおこなっているフラット35利用者調査の2023年度集計表を見てみると、土地付き注文住宅を購入した人のうち、世帯年収が391万円以下なのは14.3%です。
年収が低くても注文住宅が建てられるように見えますが、実際に家を建てようとするとある大きな問題に直面します。
それが、住宅の購入における資金計画です。年収が低いと住宅ローンで借りられる金額も低くなってしまうので、どこかしらで妥協が必要になります。
特に注意したいのが土地の価格で、地価が高い地域に家を建てたい場合はかなり条件が厳しくなってしまうでしょう。
物件も高性能にするとどんどん価格が上がってしまうので、予算に収めるためにはかなり機能を削らないといけないかもしれません。
年収300万円台でも家は建つが、地域によってはかなり厳しい。
1,000万円台でも家は建つけど自由度は低い
近年ではいわゆるローコスト住宅を扱うメーカーも増えてきたため、1,000万円台でも注文住宅を建てるのは不可能ではなくなりました。
実際にハウスメーカーのホームページを見ると、1,000万円台はおろか999万円でも家が建てられることを謳っているメーカーもあります。実際に家を建てる人が言っているんだから間違いないでしょう。
前述のフラット35利用者調査の2023年度集計表でも、注文住宅の建築費が2,000万円以下の人が全体の3.5%いることから、少ないながらも注文住宅を1,000万円台で建てている人が実在することが分かります。
とはいえ、コストのかからない注文住宅にはデメリットも存在するため、1,000万円台で満足のいく家が建てられるとは限りません。
せっかくの注文住宅なのに間取りやデザインにこだわれなかったり、水回りの使い勝手が悪かったりと、納得できないところがあるかもしれません。
また、アフターサービスが充実していないケースもあるので注意が必要です。保証期間が短く、トラブルが出始めた頃には保証が切れていて高額な修理費用がかかるというケースもあります。
そして何より、1,000万円台は建築費のみで土地代は含まれません。土地と合わせて1,000万円台はさすがに無理だと思います。広告にも(※土地代を除く)と小さな字で書いてありました。
1,000万円台でも家は建つが、自由度は低い。あと土地があることが大前提。広告にもちゃんと小さく書いてある。
支払いが月6万円台でも払う合計金額はもっと多い
月6万円台の返済は可能です。これは単純に返済期間を長くすればいいだけなので、返済期間を50年など長めに設定すれば問題ありません。
実際にLIFULL HOME’Sの住宅ローンシミュレーターで計算してみると、年収400万円、月6万9,000円の返済を50年続けた場合、返済金利が3%でも2,143万円まで借りられるそうです。
ただ、返済期間が50年ということは25歳から始めた返済を75歳まで続けるということなので、本当にこれで良いかどうかはご自身で考えてください。
そんなことより注意したいのは、注文住宅の維持費は住宅ローンの支払いだけではないということです。
固定資産税や都市計画税などの税金、火災保険や地震保険の保険料、外壁や屋根などの修繕費など、住宅ローンの支払い以外にもさまざまなお金がかかります。
このお金を無視して「月6万円台なら今の家賃より安い!」と思って飛びつくのがいかに危険か、ここまで読んでいただいた方ならお分かりいただけるのではないでしょうか。
支払額の合計が6万円台で済むわけではないことを黙っているのは、ちょっとひどいのでは?
今回の調査報告:サービスに罪はない
今回取り上げた怪しい広告は、サービスそのものは至って健全であり、怪しいものではありませんでした。
それに対して、広告は誇大表現が多く、実現可能ではあるものの一定の条件があることへの記載がないか、記載していても消費者がほとんど視認できないケースが多く見られました。
広告の表現に惹かれても、そこですぐに飛びつくのではなく、「この広告はどのような意図で作られているのか」「何か裏があるのではないか」と思って思いとどまれるリテラシーが求められます。
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