世の中にはびこるWeb広告。信頼できる組織が出稿しているものもあれば、どこの誰が出しているのか分からない、真偽不明な広告があるのも事実です。

皆さんは、こんな広告を目にしたことはありませんか?
毎日早起きして出社して、つらいことやめんどくさいことも全部乗り越えて頑張っている仕事。
そんな仕事を辞めてみたら、国から退職給付金として200万円もらえたという広告がSNSなどで散見されます。
広告で紹介されたサイトにアクセスしてみると、「退職給付金の申請をプロがサポート!」、「最短1か月で最大200万円受給可能!」の文字が。
果たしてこの広告は本当なのでしょうか。怪しい広告調査隊、参ります。
広告は何かしらの利益が出るから出している
怪しい広告について語る際に欠かせない視点が、広告は何かしらの利益が出るから出しているというものです。
お菓子の広告を出すのは、そのお菓子を買ってもらいたいからです。政府が闇バイトへの注意喚起をするCMを流すのは、闇バイトによる犯罪行為を減らせば政府にもメリットがあるからでしょう。
このように、広告は広告主が何らかの利益を得るために出すものです。広告主に直接的な利益がないのに広告を出すのは、オタクが出稿する応援広告くらいだと言えます。
それを踏まえると、今回取り上げている注文住宅の広告も、広告主が何かしらの利益を得るために出しているものだと考えるのが自然です。
一体どうやって利益を得ているのかが分かれば、この広告の正体が見えてきます。
退職給付金という制度はないが失業保険ならある
結論から言えば、退職給付金という国の制度はありません。退職した時にお金が受け取れる国の制度は複数あり、広告を作った人がそれらを勝手に呼んでいるだけです。
ただし、「退職した時にお金が受け取れる制度」そのものは確かに存在します。その代表例が、失業保険です。
失業保険は、仕事を探している人に対して支払われるお金です。受け取るには、以下の条件を満たしたうえでハローワークで手続きする必要があります。
- 雇用保険に加入して保険料を払っている
- 雇用保険の加入期間が一定の条件を満たしている(2年間で12か月以上or1年間で6か月以上)
- 働けるし働く気もあり、仕事を探している
「雇用保険なんて入った記憶ないから無理かもしれない」と思う人もいるかもしれませんが、1週間で20時間以上働いていて31日以上の雇用見込みがある場合はアルバイトでも加入対象なので、そこまで心配しなくても大丈夫です。
失業保険は仕事を辞めざるを得なかった人に優しいサービスです。企業の倒産やリストラで職を失った人や、両親の介護など仕方ない理由で辞めた人が優遇され、受け取れる金額がそうでない人よりも増えます。
手当の金額は、ざっくり言うと日割にした賃金の50%~80%。年齢などの条件によって、上限額や受け取れる期間が決められています。
例として、28歳の会社員が6年間働いた会社を突然クビになった場合の手当の額を計算してみましょう。
この人の月収が28万円だとすると、日割の賃金はおよそ9,300円。1日あたりの手当はおよそ6,000円になり、このケースでは120日受け取れるので総額72万円ほどになります。
あれ、おかしいですね。優遇されているはずのクビになった人なのに、まだ200万円の半分ももらえていません。
それもそのはず。失業保険には受給期間を延ばす裏ワザがあるんです。
失業保険には裏ワザがある
制度の概要を説明したところで、この広告の「200万円」という金額に迫っていきましょう。
実は、以下の方法を使うと失業保険が300日分受け取れるのです。
- Step 1病院に行く
精神科や心療内科に行き、病気だと医師に認めてもらう
- Step 2就業困難者に認定される
精神障害者手帳の交付を受けるなどして、就業困難者に認定される
- Step 3失業手当の申請をする
就業困難者として失業保険の申請をし、最大で360日の手当を受給する
この方法なら、先ほど例に出した28歳の会社員は300日支給されるので、180万円まで受けとれる金額が増えました。かなり200万円に近づきましたね。
この裏ワザのポイントは、病院に行って就業困難者に認定されることです。実際に病気の人が行けば就業困難者に認定される可能性は高くなりますが、元気な人が行ってもすぐに帰されるでしょう。
もう勘の良い人なら気付いたかもしれませんが、広告のサイトにアクセスして相談すると、この就業困難者になる方法を紹介される可能性が高いのです。
実際に相談したわけではないのであくまで推測になりますが、同様の方法を紹介されたというYahoo知恵袋の投稿を複数確認しているので、信憑性はかなり高いと思われます。
もちろん、病院で嘘をついて手帳の交付を受けるなんてもってのほか。となると、広告を見てサポートを受けても、300日分の手当が受け取れない人もいるでしょう。
それでも失業保険の手当は普通に受給できるし、あくまで「最大」200万円なので嘘はついていません。かなりグレーなところに足をつっこんだビジネスだと思うので、心配ではありますが……。
そもそもサポートは必要か
ここまで話を聞いても、「面倒な手続きを代行してくれるんだったら頼んでもいいかな」と思う人もいるかもしれません。
しかし、失業認定は本人でなければできないので、もし仮にサポートを依頼しても自分でハローワークに出向くことになります。
書類は確かに多いかもしれませんが、ハローワークの人も鬼ではないので質問すれば教えてもらえます。ホームページにも書類の書き方が載っているので、見ながらやればそれほど難しくはありません。
それよりも問題視したいのが、サービスの利用にかかる費用です。
今回私が確認した広告のサイトでは、上から下までくまなく探しても料金の記載がありませんでした。最下部に小さく書いてある「特定商取引法に基づく表記」のリンクをクリックして、やっと費用が税込みで29万8,000円であることが確認できました。
およそ30万円という費用の高額さもさることながら、それだけの大金を取るのにホームページで値段を明かさない姿勢に驚きを隠せません。1回500円の脱毛サロンの方がまだ事前にお金の話をしてるだけマシです。
このような「お金の問題を解決するから代わりにお金を貰うね」という広告は最近多く、以前取り上げた国が認めた借金救済制度も似たようなケースです。
この手の広告は自分にもメリットがあるため飛びついてしまいがちですが、飛びつかないように思いとどまるリテラシーが求められます。
ちなみに、どうしても失業保険の手続きをサポートしてもらいたい場合は、社会保険労務士に依頼しましょう。少なくとも30万円よりは安いはずです。
今回の調査報告:仕事を辞めたら自分でハローワークに行こう
今回取り上げた怪しい広告は、利用している制度自体は国のものではあるものの、利用者に指示されている内容は全く違法性がないとは言い切れないものでした。
国の制度について何か得策があるかのように見せかけて消費者を誘導する広告は、悪質だと言わざるを得ません。
インターネット上の広告を利用する際は、一度立ち止まってその広告が利用するに値するものであるかを確認することが重要です。
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