ふるさと納税とかいうお得すぎる謎の制度

税金

2008年から始まり、今や大人気のふるさと納税。皆さんの中にも利用している人が多いのではないでしょうか。

2,000円の自己負担で日本各地の名産品が貰えるお得なふるさと納税ですが、お得すぎて怖くなりませんか?

何か裏があるような気がする。我々に対してプラスの要素が多すぎる。そんな恐怖を抱えるあなたに向けた記事です。

ふるさと納税の仕組み

ふるさと納税の仕組みと聞くと、以下のような図を考える人が多いのではないでしょうか。

寄付をするとお礼が貰える。そうですね、大正解です。

しかし、これだと自己負担が2,000円になるからくりがよく分かりません。お金を寄付しているはずなのに、なぜ自己負担が2,000円で済むのでしょうか。

そのからくりを解き明かすには、この図に登場人物を追加する必要があります。追加したものが以下の図です。

「住んでいる自治体」と「税務署」という新メンバーが参戦しました。彼らが出てくると、なぜ自己負担が2,000円で済むのかが分かってきます。

我々がふるさと納税をしたら、そのことを新メンバーに伝えてあげる必要があります。この連絡ができるのが確定申告です。

確定申告をすると、所得税の還付が受けられます。つまり、納めた税金が戻ってくるわけです。お得すぎる。

税務署に連絡すると、自分が住んでいる場所の自治体に連絡してくれて、来年度の住民税が安くなります。そんな感じで税金の優遇が受けられるので、自己負担2,000円でいろいろな特産品が貰えるわけです。

なお、条件を満たせば「ワンストップ特例制度」という制度が利用できます。

ワンストップ特例制度を利用して寄付先の自治体に連絡すれば、確定申告をする必要はありません。寄付先の自治体が住んでいる場所の自治体に連絡してくれるので、手間がかからないのがメリットです。

この場合は税務署に連絡がいかないので、所得税の還付はなく、全額が来年度の住民税から引かれます。

なぜ自己負担が2,000円で済むのか

ふるさと納税がお得なのは税金の優遇が受けられるからだと説明しましたが、そもそもなぜこんなに優遇されるのでしょうか

その秘密を知るには、ふるさと納税の成り立ちを知る必要があります。

マジでふるさとに納税するための制度だった

ふるさと納税は、今でこそお礼のために寄付する制度だと思われがちですが、もともとは生まれ育ったふるさとへ寄付するための制度でした。

この記事を読んでいる人の中にも、生まれ育った町を離れて生活している人がいるのではないでしょうか。

ふるさとで教育などのサービスを受けて成長しても、大人になって稼ぐようになった頃には引っ越してしまった人もいるはずです。

自分を育ててくれたふるさとに貢献できる仕組みがあってもいいのではとの考えから議論が始まったのが、ふるさと納税という制度です。

そんな思いから生まれたふるさと納税の制度では、「自分を育ててくれたふるさと」に加えて、「自分が応援したい自治体」にも寄付ができるようになりました。

国にも大きなメリットがある

ふるさと納税の大きな目的が、地方を元気にすることです。地方を元気にすることは国の目標の1つでもあるので、ふるさと納税がしやすいよう、お得に利用できる制度が整備されてきました。

都市部への人口集中が進む現代では、地方で生活する若者がどんどん減っています。納税する世代が減った結果お金がなくなり、資金がないので町おこしもできない……という負のループに陥る自治体も少なくありません。

そこで活躍するのがふるさと納税です。ふるさと納税で自分が寄付したい自治体を自由に選べるようになれば、人口の少ない自治体にもお金がいきわたり、自治体間の経済的な格差がなくなることが期待されます。

国はなるべく地方に元気になってもらおうと、交付金を出したり移住を支援したりとさまざまな工夫をしています。ふるさと納税もそのための工夫の1つなので、寄付する人が恩恵を受けられるようになっているわけです。

ふるさと納税にも注意点はある

自分はお礼を貰えて地方も元気になるという素晴らしいふるさと納税ですが、メリットだらけというわけではありません。デメリットや注意点も存在します。

税金そのものが減るわけではない

ふるさと納税は節税対策と思っている人もいるかもしれませんが、税金そのものが減るわけではありません

来年度払う予定の住民税を先に納めて、その額の3分の1くらいのお礼を貰っているだけです。確かに得はしていますが、税の負担を減らしたいのであれば別の方法を取る必要があります。

制度変更でお得感が薄れる可能性がある

今後ふるさと納税の制度が変更され、お得感が薄れる可能性もあります。

たとえば、ふるさと納税ポータルサイトでのポイント付与が2025年10月から禁止されると発表された際には、大きな話題になりました。

すでに説明したとおり、ふるさと納税の目的は地方を元気にすることであり、ポイントを付与して客を囲い込むなど本来の目的から外れた動きは規制される傾向にあります。

これまでも何度か対策が取られてきましたが、ふるさと納税のあるべき姿ではないと国が判断した場合、制度を変更する可能性は今後も考えられます。

制度変更の結果として、ポイントサービスの廃止のように、ふるさと納税を利用する我々のお得感が薄れてしまうかもしれません。

自分の住んでいる自治体の財政が悪化する

ふるさと納税をしている人はあまり考えたことがないかもしれませんが、ふるさと納税をすると自分が住んでいる自治体に入るお金が減ります。もう一度ふるさと納税の仕組みを思い出してみましょう。

ふるさと納税をすると、寄付した分に応じて住民税が減額されます。つまり、自分が納めるはずだった住民税が別の自治体に流れているとも言えます。

住民税は自治体の貴重な収入源の1つです。仮に、寄付してもらった額よりも住民税の減額の方が多くなってしまったら、ふるさと納税のせいで赤字になって困ってしまいます。

そんな「ふるさと納税赤字」の自治体は、残念ながら実在します。赤字の自治体は、多くの人口を抱える都市部に集中しています。

たとえば、東京都世田谷区の令和5年度(2023年度)決算概要を見ると、世田谷区のふるさと納税による赤字額は98億9,200万円です。

世田谷区だけで1年間に100億円近くが失われていると考えると、いかに損失が大きいかが分かります。1年だけの損失なら何とかなるかもしれませんが、ふるさと納税は毎年のことです。

特に、全額が住民税から引かれるワンストップ特例制度を使うと、所得税の還付がない分、自治体にとっての損失はより大きくなります。我々の利便性の陰で、自治体が苦しい思いをしているのです。

実際に、ふるさと納税で赤字になっている自治体の中には、「ふるさと納税で市税が流出している」、「ワンストップ特例で国の分まで自治体が負担している」などの悲痛な訴えをしているところもあります。

自治体にとって住民税は貴重な収入源であり、インフラの整備や防災対策など住民の生活に欠かせない政策に使われます。これらが失われるのは、住民にとって大きな損失に他なりません。

ふるさと納税でお礼を貰った時、その裏では自分が住んでいる自治体での暮らしが脅かされているかもしれない……というのは言い過ぎかもしれませんが、減っている税収のことくらいは考えておいてあげてください、

賢い納税者になろう

ふるさと納税について調べると、「返礼品を貰おう!」という宣伝ばかりが目につきます。制度が始まってまもなく20年を迎えようとしていますが、制度本来の目的は徐々に忘れ去られつつあるのかもしれません。

ふるさと納税には3つの意義があります。その第一として挙げられているのが、寄付する自治体を選べる制度であること、だからこそ寄付したお金の使われ方を考えるきっかけとなる制度であることです。

ふるさと納税をした人のうち、寄付した自治体の活用報告を見た人がどれだけいるでしょうか。自分が寄付したお金がどんなふうに使われたのか、自分が望んだように使われたかを確認しているでしょうか。

これを機に、ふるさと納税の本来の姿に立ち返り、税の使われ方を考えるきっかけにしてみませんか?

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